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B i o g r a p h y

【思春期編 Ⅴ】中学生の部 さらにさらにさらにつづき

 

 

翌朝。

 

教室に到着するとTさんとYさんが既に席で談笑している。

どうやら級長はまだのようだ。

2人は僕を見つけるなり一瞥し、「本日第一ミッション遂行、失敗は許されない」という意味の込められたテレパシーを一瞬で飛ばしてきた。

 

すごく怖かった。

 

そうこうしているうちに級長が教室に入ってきた。

この級長は血の熱い人間だが、どうやら低血圧で朝は弱いそうだ。低血圧と熱血は反比例するとも限らないらしい。

 

級長、全力でテンションが低い。

 

そんなことはお構いなしにYさんが級長に声をかける。

 

Y「よう級長おはよっち☆」

 

級「・・・・・ぁぃ」

 

 

級長、今日も絶好調のようだ。

 

 

午前中の授業を無難にこなして昼休み。

 

いよいよ作戦が遂行される。

 

 

【Tさん告白大作戦】第1章~誘い出し~(おさらい)

 

①教室にて級長・僕・Tさん・Yさんの4人でいる時にクリスマスの話をする。

②Yさんがクリスマスに予定がないと嘆く。そして僕もそれに乗っかり予定がないと嘆く。

③Tさんが「それじゃクリスマス4人で遊ばない!?」と名案のごとく発言する。

④Yさんと僕が「いいね!!」と賛同。級長を引きずり込む。

 

 

いつものように級長・Tさん・Yさんの3人で話しているところへYさんによって拉致られる僕。その時彼らの周りにはあまり人がいなかった。割とナイスなシチュエーションである。

 

 

T「も、もうすぐクリスマスだっ・・ね!」

 

 

もう緊張しているようだ。

 

 

僕「そ、そうだっ・・ね!」

 

 

何故か僕も。

 

 

Y「真似すんな(笑)あぁ~あ、クリスマスなんて来ないで欲しいわ~・・」

 

級「おいおい!クリスマスは楽しいだろ!」

 

Y「なんの予定もないし!」

 

級「なんて寂しいやつ(笑)」

 

僕「級長はなんか予定があるの?」

 

級「そんなのあるに決まってるだろうよ」

 

 

まさかの展開に暗雲が立ち込める。

 

 

T「えっ・・」

 

Y「えっ、まさか・・デート?」

 

級「あぁ、そうだ」

 

僕「まじ・・?」

 

級「えっと・・嘘です」

 

Y「なんだよ!」

 

僕「家族でパーティー的な?」

 

級「毎年そうだな」

 

 

ここでTさんがたまらず発言

 

 

T「イブもクリスマスもおうちでパーティーするの・・?」

 

 

級「いや、25日だけ」

 

T「じゃ、じゃあさ!」

 

 

ちょっと待ってください僕まだ「予定がない」って言ってません。と思ったが、もしかするとこの作戦実行委員から逃げることができるかもしれないという一筋の光が見え、咄嗟に言葉を飲んだ。

 

 

T「24日・・4人で・・その・・放課後遊ばない!?」←Tさん、全力で顔が赤い

 

Y「いいねぇ~!!!」

 

僕「・・・・・」ニコニコ

 

 

(Yさん、僕に日本一のメンチを切る)

 

 

僕「い、いいねぇ~、ハハハ・・」

 

 

どうでもいいことだが、僕はこの瞬間「儚い」という字は「人」の「夢」と書く意味を知った。

 

僕の一筋の光、消滅。

 

 

Y「じゃ、決まりだな!!みんな当日空けとけよ!」

 

級「俺も!?」

 

僕・Y「とぉーぜん☆」

 

Y「なんか文句でもあるのかな?級長くん」

 

級「い、いえ、ございません・・」

 

Y「よろしい」

 

 

そして24日の作戦が実行に移せることが確定した。

その後、プレゼント交換についてディスカッションしていると、ウワサのニクいアンチキショウがどこからともなく現れた。

 

 

ゴレムスである。

 

 

ゴ「なになに!?なんか楽しそうな話!?俺も混ぜて!!」

 

 

再び僕に一筋の光が現れる。

 

 

級「おぉ!ゴレムス!おまえ24日ヒマか!?」

 

ゴ「イブ!?ヒマヒマ!!」

 

級「一緒に遊び行くか?」

 

ゴ「いいの!?」

 

級「いいだろ?」

 

 

級長がほかの3人に問いかける。

 

 

僕「おおお多いほうが楽しいしね!!!!」

 

 

僕はTさんとYさん(特にYさん)を見ないようにした。

 

 

こうなってしまうと女性陣2人も許可せざるを得ない。

 

そしてめでたくパーティー入りを果たしたゴレムスがとんでもない一言をぶちかます。

 

 

 

ゴ「男3人・女2人になっちゃうな。そうだAも誘ってみようぜ!!」

 

 

黙る級長。焦る僕。

そして僕はこの男に「銀河系一空気の読めない男」の称号を与えた。

 

 

当然何も知らない女性陣2人はAさんを誘うことに賛同。

 

ここを阻止できるのは僕しかいない!と思い「Aさんは忙しそうだからやめておいた方が」と言いかけるも、既にゴレムスはAさんの元へ行きAさんを誘っていた。

 

これで密かにTさんたちとイブを過ごすと知られた僕に明るい未来はない。しかしAさんはAさんで、振った相手である級長達とわざわざイブを過ごすなんてことはしないだろうという自信はあった。

 

ゴレムスが戻る。

 

 

 

ゴ「オッケーだって!」

 

 

 

僕「うそぉおお!!」

 

思わずそう叫んでしまった。まずい。

 

Yさんが僕を凝視している。周辺視野で見える。

ため息一つ。

 

致し方ない。級長には申し訳ないがYさんに話そう。

 

 

そうこうしているうちに昼休み終了のチャイムが鳴った。

 

僕はYさんにこっそり耳打ち。

 

 

僕「後程、全部お話しします」

 

Y「放課後だな」

 

僕「了解」

 

 

物事、そう上手くはいかない。

 

 

放課後・屋上にて

 

 

僕「じつはさ・・」

 

Y「話を聞く前に」

 

僕「えっ?」

 

Y「ゴレムス仲間入りになぜ賛同したんだコノヤロウ!」

 

僕「あ、いや、えっと・・ゴレムスなら無害かなって・・あとあそこで断ったらゴレムスかわいそうかなって・・」

 

Y「お前はホント・・。で?何がどうなってんのよ」

 

僕「あ、うん、えっとね、級長にはトップシークレットでお願いしますよ。あ、当然Tさんにもね」

 

Y「わかった。で?」

 

 

級長ごめん。心の中でそうつぶやいた。

 

 

僕「実はさ、級長、合唱祭練習が始まった頃、Aさんに告って振られててさ・・合唱祭終わるまでずっと元気なかったんだよ。本人は男らしく諦めたから心配するな!って言ってたけど、僕には元気がないことくらいわかるわけで・・」

 

Y「おーいー!なんで早く言わないんだよ!」

 

僕「君らがグラウンドで僕に打ち明けてきた頃は、だいぶ級長も吹っ切れてる感があったし、Tさんが自信なくしても困るし、それにそんなべらべら話せないでしょ?他人のデリケートな部分」

 

Y「まぁ・・そうだけど・・」

 

僕「僕は級長が心の底から凹んでたのを知っているし・・表面上では強がっていてもね。だから、あわよくばTさんに級長を癒してもらって欲しいと思ったんだよ。だからあのとき僕は“温めてからのほうがいいと思う”と言ったわけさ。僕も一応、その後の級長とTさんをこっそり観察していて二人の距離がだいぶ縮まってるのがわかって安心してる。でも、級長がAさんのことを完全に吹っ切れているかなんて誰にもわからないでしょ?ただひとつ確実に言えるのは・・・」

 

Y「イブにAを呼んだら級長・・・」

 

僕「うん・・そしてまず間違いなくTさんの告白にOKはしないと思う」

 

Y「それは間違いないな・・やばいな、どうしよう」

 

僕「Aさんには悪いけど・・中止になったって嘘つくとか・・級長にはAさん来れなくなったって・・」

 

Y「そんなこと言って街でばったり会っちゃったらどうすんのよ」

 

僕「そこが問題なのだよお嬢さん」

 

Y「おっさん(笑)くっそーゴレムスのやつ!!」

 

僕「まぁまぁ、しょうがないよ」

 

Y「どうしよう・・まじ、どうすんだよピサクおい!」

 

僕「手っ取り早いのは・・」

 

Y「うん・・」

 

僕「その日みんなで遊ぶのはナシにして、Tさんと級長だけで遊んでもらうことだよね・・そして君はこっそり観察しに行くがいいよ」

 

Y「Tあいつチキンだからなぁ・・2人で遊ぼうなんて誘えないだろぉ・・」

 

僕「じゃぁ、その日は遊ばないことにして告るだけ。夜、級長を公園に呼び出すことだけでも出来ないものかな?」

 

Y「どうだろう・・・あいつホント女々しいからなぁ」

 

僕「女の子なんだから女々しくて当然でしょぉ、君じゃないんだから(笑)」

 

Y「どういう意味じゃ!!」

 

僕「大変失礼致しました」

 

僕「じゃあいいよ、とりあえずTさんに聞いてみてよ。無理そうだったら僕がなんとかして級長をおびき出す!そしてそこにはTさんがいた!みたいな(笑)」

 

Y「そうだな!とりあえず明日みんなに、都合によりキャンセルと伝えて、Tにはその旨伝えるわ」

 

僕「Tさんにホントのことは言っちゃダメだよ?」

 

Y「わかっとるわい!」

 

僕「Tさんと級長には僕がダメになったって言っていいから」

 

Y「OK」

 

僕「Aさんとゴレムスには僕から伝えておくよ」

 

Y「夜露死苦」

 

僕「それであのぉ・・」

 

Y「ん?」

 

僕「Aさんとゴレムスには、君がダメになったって言っていいっすか・・?」

 

Y「ん?なんで?」

 

僕「いや・・そのほうが何かと都合がよろしいもので・・」

 

Y「だからなんで?」

 

僕「えーっ・・と・・あ!そうそう!ゴレムス(本当はAさん)も暇だって言うし、中止になったと聞いてガッカリしてたら僕がゴレムス(本当はAさん)と遊んでもいいしさ!」

 

Y「なんだその閃いたような感じは」

 

僕「そんなことナッシング☆」

 

Y「親指立てんな。残念だけど、それはダメ」

 

僕「えっ・・・」

 

Y「あんたはあたしとTの様子を見に行くんだよ」

 

 

 

 

帰り道、絶え間なくこぼれる僕のため息を、寒さが白く、いたずらにその形を作っていた。

 

帰宅すると家には誰もいなかった。

テーブルには一枚の書き置きが。

 

 

 

「とっても美味しい高級魚を買ってきます 母」

 

 

 

翌日、僕はAさんとゴレムスそれぞれに「僕の都合」が悪くなり、イブの日は中止になったと伝えた。

ゴレムスは酷くガッカリしていたが、僕だってガッカリだ。

 

そして僕は「クリスマスイヴをAさんと」なんて淡い期待を持つことをやめた。

級長の事を思うと、こうなるのが一番良かったとも思える。

 

これから級長をTさんが誘うのか、はたまた僕がおびき出すのか、もうどちらでも良かった。

僕はただただ、級長がTさんと上手くいくことだけを願った。

 

 

【思春期編 Ⅴ】中学生の部 もっとつづく

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