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B i o g r a p h y

【思春期編 Ⅳ】中学生の部 さらにさらにつづき

 

 

合唱祭が終わってから僕は、Aさんへの気持ちを殺すように生活していた。

ピアニストの件も、別の人を探そう。

 

級長は級長で、相変わらず周りのクラスメイトにいじられながら、クラスを賑やかせ楽しませていた。いつもと変わらない級長の笑顔にも、なんとなく以前のような内面的な明るさが戻ってきたような気もして僕も少し安心してきた。

 

とある日の放課後、僕がグラウンドで他クラスの友達のいる陸上部に紛れ込んでさりげなく彼らと一緒に50mダッシュをしていると、下駄箱付近にいた2人の女子生徒に呼ばれた。

 

友達からニヤニヤ顔で「告白?ねぇ告白なの?」などと問われたが「そんなわけないでしょ」と返し、2人のもとへ向かった。

僕は目が悪い。近づいてようやくその2人が合唱祭練習時のソプラノリーダーのTさんとアルトリーダーのYさんだったことに気がついた。

 

グラウンド脇のベンチに腰掛け、2人の話をうかがうことにした。

※念のため記しておきますが、Yさんは女子です

 

 

僕「どうしたの?」

 

Y「あれ、クールボーイ、陸上部?ハンドボール部だと思ってた」

 

T「えっ?私こないだピサク君が野球部と一緒にバット振ってるの見たけど・・」

 

僕「あぁ、振ってたかも」

 

T「部活掛け持ちしてんの?」

 

僕「僕は帰宅部です」

 

Y「ええええ!!なにしてんの!(笑)」

 

僕「暇だからさ(笑)それで、どうしたの?」

 

T「あ、いや・・」

 

 

 

急に俯き黙るTさん

 

 

 

Y「ほら!T!」

 

僕「・・・(え・・)←心の声」

 

T「あ、あの・・」

 

僕「はい・・(こ、これは)」

 

T「その・・」

 

Y「ほら!!」

 

僕「え・・・(まじ・・?)」

 

T「あ、あのね!」

 

僕「え・・うん(うそぉ何この展開)」

 

T「私・・」

 

僕「・・・(ま、待って!心の準備が!)」

 

T「きゅ」

 

僕「・・ん?きゅ?」

 

 

 

 

T「級長って彼女いるのかなぁ!?」

 

 

 

 

穴があったら入りたいと心の底から思った。

 

 

 

 

僕「あー、いや、いないんじゃないかな・・?わかんないけど」

 

Y「好きな人は?」

 

僕「えっと・・知らないなぁ・・」

 

Y「T、級長が好きなんだってさ~」

 

T「ちょ、ちょっと!」

 

Y「あんなの何がいいんだかねぇ~」

 

T「カッコイイもん!!あ・・」

 

 

 

正直、級長はカッコイイとは言えないが、人間的には素晴らしい人格の持ち主であることは間違いない。

 

 

 

Y「告って大丈夫だと思う?」

 

僕「級長ああ見えて真面目だからね、温めてからのほうがいいんじゃないかなぁ」

 

T「やっぱそうだよね!」

 

Y「好きならとっとと告っちゃえばいいのに」

 

T「アンタとは違うの!」

 

僕「う~ん・・今はやめておいたほうがいいかも・・」

 

Y「なに“今は”って。ピサクおまえ何か知ってるな?」

 

僕「い、いや・・何を言ってのるかさっぱり・・ワカリマセン。パードゥン?」

 

T「Y、いいよ!やっぱりもう少し様子見てからにする!」

 

僕「Oh Yes!ソレガイイデス」

 

Y「後で絶っっ対おまえから聞き出してやる!」

 

僕「スーシー、テンプーラー、オーヤーコードン☆」

 

Y「親指立てんな(笑)」

 

僕「まぁとりあえず少しずつアプローチしていったほうがいいと思うよ」

 

T「うん!わかった!ありがとう!ごめんね、練習中」

 

僕「大丈夫、帰宅部だから」

 

Y「一個に絞れ浮気者!」

 

 

そして2人はどこかへ消えていった。

少し離れたところでYさんが「あいつ全然クールじゃねえな」とTさんに言っていたのが聞こえたが、今はどうでもよかった。

あわよくばTさんが級長の傷を癒してくれるかもしれない。切に願った。

 

 

2人がいなくなると同時に陸上部に戻ると、さっきまでいなかった恐ろしく怖い顧問の体育教師がいたので、陸上部の横を凛々しい表情で通り過ぎ帰宅することにした。

 

 

翌日から休み時間になると級長のいるグループのもとへTさんとYさんが行くようになり、そのたびに何故か僕まで呼ばれるようになった。

Aさんはその頃、一人でなにやら楽譜を見ている事が多かったと思う。

 

 

それから数週間が過ぎたある日の放課後、とある用事を済まし教室に戻るとAさんが誰もいない教室に一人、窓から校庭を眺めていた。

咄嗟に引き返そうとしたが、引き返す必要もないことにすぐに気づき、思い切って声をかけた。

 

 

僕「Aさん」

 

A「あっ、ピサク君」

 

僕「何してるの?」

 

 

 

考えてみると、こうしてちゃんとAさんと話すのは作品を見せる約束をした時以来かもしれない。

 

 

 

A「外見てた・・みんなイキイキしてるなぁって」

 

僕「なんか、センチな感じだね(笑)どれどれ」

 

 

 

一緒に外を眺めてみた。

 

 

 

A「私・・ピアノ弾くのが、怖くなっちゃった」

 

僕「えっ!?どうして!?」

 

A「世の中には私よりも上手な人がたくさんいるし、そういう人たちってすごく楽しそうに弾くし、みんなイキイキとしてる。私みたいにピアノしかできないから弾いてるんじゃなくて、楽しいから弾いてる。みたいな」

 

僕「Aさんは、ピアノ弾いてて楽しくないの?」

 

A「楽しい・・と、思ってたけど、今はわからなくて・・」

 

 

 

その時ふと、小学校の時に僕に色々教えてくれていた音楽の先生のことを思い出した。

 

 

 

僕「参考になるかどうかわからないけど・・」

 

A「え?」

 

僕「僕が小学校3年生の頃、それまで音楽が嫌いだった僕に音楽の楽しさを教えてくれた先生がいたんだ。その先生は小さい頃からピアノばっかり練習させられてて、お友達ともろくに遊ばせてもらえなかったんだって。だから小さい頃はピアノも音楽も嫌いだったって。でも、自分にはピアノしかないって信じて弾き続けてたら、ピアノの方から心を開いてきてくれたって。僕には気持ちが全然わからないけど、Aさんにはわかるのかなぁ。楽しくて弾いてる人だってそりゃいると思うけど、常に楽しいってわけでもないんじゃないのかなぁ。先生からその話を聞いたとき“今はピアノ大好きだし、音楽も大好き”って言ってたよ」

 

A「・・・・」

 

僕「あっ!・・ごめん、余計なことを」

 

A「ううん。ありがとう。」

 

僕「いや・・ハハハ」

 

A「君って優しいね」

 

 

 

ドキッとした。ドキッとしたからつい

 

 

 

僕「いつになるかわからないけど、曲書くよ。Aさんが楽しく弾けるような曲」

 

A「え・・?それって、私に書いてくれるってこと・・?」

 

僕「うん。いつになるかわからないけど、必ず書くよ」

 

A「・・・ありがと・・嬉しいです」

 

僕「でも・・期待しないでね」

 

A「わかった、期待してる(笑)」

 

僕「ちょっと(笑)」

 

A「あ~あ、ピサク君が曲書いてくれるまで、ピアノやめられなくなっちゃったな~(笑)」

 

僕「なるべく時間をかけて書くように致します(笑)」

 

A「ちょっと(笑)」

 

僕「アハハ(笑)」

 

A「・・ねぇ、ピサク君」

 

僕「ん?」

 

A「こないだ斉藤先生(音楽の先生)からさ」

 

僕「・・・うん」ドキッ

 

A「遠藤君(僕)からピアノまだ頼まれてない?って聞かれたんだけど、なんのこと?」

 

僕「えっ・・とぉ・・誰だっけ遠藤君て・・」

 

A「君でしょ、ちゃんと訂正しておいたよ」

 

僕「あ・・そう、ありがとう。あの先生僕の名前覚えてくれなくてさ、いつも間違えるんだよね~」

 

A「そこじゃないよ聞いてるところ。言いたくなければいいんだけどね・・」

 

僕「ん・・言いたくないわけではないんだけど・・今は時期じゃないというかなんというか・・」

 

A「わかった、じゃ、話してくれるの待ってるから」

 

僕「は、はい」

 

 

 

 

すると、幸か不幸か、教室にゴレムスが現れた。

 

 

 

 

ゴ「あれ、オフタリサン、何やってんの?密会?あっ、俺じゃま?ゴメンゴメン!誰にも言わないから!」

 

 

 

相変わらず体に比例して声がでかい。

そしてこのとき密かに僕は「世界一空気の読めない男」の称号をゴレムスに与えた。

 

 

 

僕「Aさんが校庭を眺めてたから、僕も見てたんだ」

 

A「ゴレムス君もおいでよ!」

 

 

 

ゴレムスが仲間に加わった。

 

 

 

A「みんなイキイキしてると思わない?」

 

ゴ「なに?いきなり(笑)」

 

僕「そういう話をしてたんだよ(笑)」

 

ゴ「そっか!まぁ、青春だよね(笑)」

 

 

それから長いこと僕とAさん、ゴレムスの3人で校庭を眺めながら、他愛の無い話をして帰宅。

 

ついうっかりというわけでもないけれど、Aさんに曲を書く約束をしてしまった。当然、誰かに曲を書く事なんて初めてだし、ピアノがあんなに弾ける人に適当な曲を書くわけにはいかない。たくさん勉強しなくては。

ただ、あまり焦って書いてもきっといいものは生まれないんだろうなとも思う。

僕が曲を書き終えるまでピアノを頑張ると言っていたし、ゆっくり書こう。そう思った。

 

 

 

季節はすっかり冬になり、街のイルミネーションが煌めくようになった頃、Yさん経由でTさんがクリスマスイブに級長を誘い告白するという情報が舞い込んできた。

僕の勘違い事件翌日からTさんのさりげない級長へのアプローチは続いており、級長もすっかりTさんとも仲良しになっていた。それまでの過程の中で、級長のAさんに対する思いを僕は一度も聞いていない。僕が見る限りでは、もう吹っ切れているのだろうと思うくらい、級長のAさんへの接し方も自然なものになっていたと思う。

 

Yさんからの“Tさん告白大作戦”の情報を聞いたとき、Yさんから衝撃の言葉があった。

 

 

Y「かくかくしかじか」

 

僕「へぇ~、上手くいくといいね」

 

Y「というわけだから、当日予定入れんなよ」

 

僕「うん。ええっ!?」

 

Y「あんたとあたしも行くんだよ」

 

僕「ちょちょちょちょっと待って!なんで僕・・?」

 

Y「暇でしょ?ん?」

 

僕「あ・・いや・・えっと・・・・ゴ、ゴレムスが空いてるって言ってたよ!!(ゴレムスごめん!!!)」

 

Y「もう一回言いうよ?暇でしょ?」

 

僕「はい、暇です。すいませんでした」

 

 

心の底から神様を恨んだ。

99%ないと思うけど、万が一Aさんからのお誘いがあった時のために空けておきたかったのだ。

それにそのとき、なんとなく、ただなんとなくだが、嫌な予感がしていた。

こんなにワクワクしないクリスマスイブは初めてだ。

ため息しか出ない。

 

しかしここは恋するクラスメイトのためだと割り切ることにして、Yさんの作戦を聞くことにした。

 

作戦はこうである。

 

 

【Tさん告白大作戦】第1章~誘い出し~

 

①教室にて級長・僕・Tさん・Yさんの4人でいる時にクリスマスの話をする。

②Yさんがクリスマスに予定がないと嘆く。そして僕もそれに乗っかり予定がないと嘆く。

③Tさんが「それじゃクリスマス4人で遊ばない!?」と名案のごとく発言する。

④Yさんと僕が「いいね!!」と賛同。級長を引きずり込む。

 

 

【Tさん告白大作戦】第2章~当日までの流れ~

 

①せっかくだからプレゼント交換をしようぜという話題を持ちかける。

②予算は1000円以内と決める

③当日までに出来るだけTさんと級長の距離を縮めさせる

④Tさんは級長のためにプレゼントとは別でマフラーを編む

 

 

【Tさん告白大作戦】最終章~当日の流れ~

 

①午後4時、駅前集合

②カラオケ(その間にプレゼント交換:当然主役の2人が交換になるように仕組む)

③日が暮れた頃イルミネーションのある公園へ移動

④Yさんがコンビニへ行くといい無理矢理僕を拉致。

⑤コンビニへ行くと見せかけて僕らは物陰から二人を観察

⑥残った2人だけでしばしの会話。そしてイルミネーションの下、Tさんがマフラーを渡し告白

 

 

OKサインは大きく腕を上げピース

NGサインはその場にしゃがむ

 

NGなら我々が何食わぬ顔で現場へ戻りそのまま解散。OKならそのまま2人で食事にでも行くがよいということで、Tさん告白大作戦、終了。

 

 

Yさんからこの作戦を聞いた翌日からTさん告白大作戦第1章がスタートすることになった。せっかくだから、全力で協力してあげようと思った。

 

 

 

そして翌日、Tさん告白大作戦は“アノ人物”の手により序盤から出足をくじかれることになる。

 

 

【思春期編 Ⅳ】中学生の部 まだまだまだつづく

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