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【思春期編 Ⅰ】小学校卒業~中学生の部
小学校6年生。
この頃僕は作曲あそびと同時進行で絵画などの芸術鑑賞にハマっていた。
というのも、僕には歳の離れた姉がいるのだが、ある日姉が「絵を始めた」と言い自身の作品を見せびらかしに我が家にやってきた。
僕の姉は一言で言えば「超人」
小6の僕の目からすると、モノクロ写真かと思うくらいリアルに鉛筆で描かれた絵がそこにあった。
姉の作品が並ぶスケッチブックをパラパラとめくり、いつの間にか絵画の魅力にとりつかれていた。
その後、絵に興味を持った弟の為、姉はスケッチブックと色々な濃さの鉛筆、それから有名な画家の絵画集を僕にプレセントしてくれた。
初めこそスケッチブックで姉のように鉛筆で何かを模写していたが、凡人が姉のようにいきなり上手に書けるようになるはずもなく、絵画集の方に興味が向いてしまっていた。
その後は「描くよりも観る」という具合で、様々な画家の絵画に興味が向いていった。
とりわけ好きだったのがレオナルド・ダヴィンチとエドヴァルド・ムンクである。
この二人は時代も全然違うし、共通する点は殆どないと思うが、子供の頃はそんなものは関係なく、ただ観ていて何かを感じ取れる作品に自然と興味が向いたというわけである。
その後は日曜になると、父親に色々な美術館に連れて行ってもらっていた。我が子の感性を育ててくれようとしていたそうだ。
夏の終わり頃だったか、事件が起こる。
何月くらいだろう、暑い日の日曜だったという事だけ覚えている。
僕は一人、既に家を出て空っぽの姉の部屋で母に買ってもらったダヴィンチの名作「モナリザ」が描かれたジグソーパズルを黙々と作っていた。
もうすぐ完成だ。とてもワクワクしていた。
ようやく残り数ピースで完成というところで、家の電話が鳴った。
そして母親と父親が深刻な顔をしてなにやらバタバタと準備をし始めた。
「ちょっと母さんと出かけてくるから、家で留守番してろ。いいな。」
父が言う。
なんだよ。何があったんだよ。
父の洋服を離さなかった。なんだか怖かったんだ。
「どうしたの!」と叫び、父親にしがみつく。
父「いいか、落ち着いて聞けよ。伯母ちゃん(母の姉)がキトクだ。」
なんだよキトクって!どういう意味だよ!わかんないよ!
もうなんだかわからないけどパニック状態の僕を振り払い、行ってしまった。
何かはわからないけど、伯母ちゃんに何かがあった事だけはわかる。凄く怖かった。
僕はもっともっと小さい頃から毎週水曜になると母の自転車の後ろに乗って、買い物に行って、帰りに伯母ちゃんの家に行って遊んでいた。
甘えん坊の僕の事を、親戚以上にかわいがってくれていた伯母ちゃんが僕は大好きだったんだ。
変な意味じゃなくて、伯母ちゃんは凄くいい匂いがして、とっても優しかった。
伯母ちゃんの家にはいつも綺麗なお花がいたるところに活けてあって、家中がお花のいい香りに包まれていて、とっても幸せな場所だった。
伯母ちゃんは早くに旦那さんを亡くしていて、娘と孫がいたけど遠方で暮らしていたのでいつも一人だったから、僕が自転車に乗れるようになってからは一人で遊びに行ったりしていた。
僕が突然やってくると、ココアをいれてくれて、伯母ちゃんは苦いコーヒーをすすりながら、たくさんお喋りをして帰った。
帰りが危ないからと言って、歩いて見送ってくれるのだが、今度は伯母ちゃんが帰り道歩くの大変だから「もう大丈夫だよ」と言ってもいつまでもついてきてくれた。本当にバイバイしたあとも僕が見えなくなるまで見てくれていた。今思えば、僕が何度も振り返って見るものだから、なかなか帰れなかったのだろう。
そんな伯母ちゃんになにか大変な事が起こっているんだ。
なかなか落ち着く事も出来ず、残り数ピースでできるパズルも進まなかった。
2階と1階を行き来したり、意味もなく外を見に出たり、そわそわそわそわしていた。
数時間たった頃、また家の電話が鳴った。父からだ。
「あのな、伯母ちゃん、死んじまったよ。」
自然と涙がこぼれた。
音楽の授業でバッハで流した涙とは全然違う涙。
動けなかった。なにも出来なかった。
しばらくすると母だけが一人、帰ってきた。
困ったように笑顔を作っている。
でもこの笑顔は偽物で、息子に悲しい思いをさせないように無理をして作っている笑顔だということが僕にはわかってしまった。
母は泣かなかった。告別式でも。
でも火葬炉に棺が入るときだけは堪えられなかったらしい。すすり泣く母が小さく見えた。
その日の夜、僕は伯母ちゃんとの思い出を思い出しながら残りの数ピースを仕上げた。
(その時のパズルは今でも大事にしている)
伯母の死。
人生で初めて味わう大きな悲しみ。
しばらくは心にぽっかり空いた穴を埋める事は出来なかった。
小学生ながらにして事情を察したクラスの友達も、変に気を遣ってくれているのか、頼んでもないのに給食のおかずを無意味にくれたりしてくれた。
伯母の死に伴う周りの環境の変化、近所の人の気遣い、友達のおかしな方向に向いた小さな気遣い。
人間がつくり出す大きな感情の中には様々な感情が入り混じっていて、時には真逆の感情さえ芽生えるという事をこの時に学んだ。
この出来事がきっかけなのか、気がつけば自分の感情を音にするようになっていた。
悲しみ、怒り、喜び、喜怒哀楽を。
自然と音楽や絵画など、芸術の感じ方も変わっていった。
今でも、作品には感情を入れてしまう。
伯母の死から数カ月の間、周りの友達の変な気遣いのおかげなのか、段々と普段の生活を取り戻しつつあるころ、僕は小学校を卒業した。
今思い返すと、小学校のクラスメイトはみんな良い友達だった。さりげなく僕の心の傷を癒そうとしてくれていた。本当に感謝している。
思春期を前に、こういった大きな感情に見舞われたからなのか、中学生になっても僕には“反抗期”というものがなかった。
父親には逆の意味で心配をかけた。心に深い傷が入ってしまっているのではないかと。
しかし心配は無用だった。
僕もそれなりの思春期を迎えていた。
急に身だしなみを気にするようになり、周囲に映る自分の姿(これは外見だけでなく中身も)が気になるようになった。
中学生という大人への準備期間に僕は何を思ったか、自分のキャラクター作りを始めるようになる。
本当は恥ずかしいので書きたくないのが本音だが、これを書かないと続かないので思い切って書くが、僕の当時のキャラクターは
「クールキャラ」だった。
恥ずかしすぎる。
本当に赤面してしまうけど、喋り方まで変えていた。
そんな僕も、恋愛という言葉に興味をもつようになる。
クラスの女子に恋愛感情を持ったという事でははなく、綺麗な先輩とか、隣にあった高校の女子高生を、ただ遠くから眺めているだけだった。
今でこそそんな事をしていたら犯罪者扱いされそうだが、当時は中学生。
しかもクールキャラ。自分から声をかけるなんてことはしなかった。というより出来なかった。大概知らない人だし。
そんなある日、僕は一人の女子に恋をした。
まさかのクラスメイトだ。
僕のクラスは男女仲があまりよくなかったので、男女東西分裂が当たり前だった。
クラスの男子が女子と話す時なんか、授業で班になって何かを作る時か掃除の役割分担くらいだ。
そして僕は「クールキャラ」、普段クールにしている男子が突然女子に話しかけるなんてことは出来ない。
馬鹿みたいだけど、当時はそう思った。
書き忘れていたけれど、何故僕がその女子生徒に恋をしたかと言うと、これまた単純だ。
ある日の音楽の授業で、合唱祭の伴奏者を決めるため先生が「ピアノ弾ける人~」と言った時に手をあげた3人のうちの一人だ。
好きな曲を弾けと言われさらりと「幻想即興曲」を弾いていた。
クラスの男子から「すげぇ~」などと言われていたが、どうやら耳には入っていないようだ。
ちなみにもう一人は「インヴェンション8番(だったと思う)」そしてもう一人は・・・思いだせない。
当然その人が伴奏者に決まり、次は指揮者を決める番だ。
正直僕は指揮者がやりたかった。
でも僕はクールキャラなので・・(以下省略)
誰か推薦してくれないかなぁ・・・などと戯けた思いでいる中、先生が言った。
「指揮者は出来れば男子!誰かいないの~?」
シーーーン・・・・男子一同下を向く。
これはチャンス。いま立候補すれば即決で決まる。
「じゃぁ、やります」
と、言いかけたその瞬間いじられキャラの学級委員長の男がこう言い放った。
「誰もいないなら俺がやるよ~しょうがないな~へへ」
と、あっさり学級委員の男に決まり、男子から「よし、級長ナイス」という意味の込められた拍手が。
ひそかに凹む。
が、これはこれでよかったのかもしれない。
なぜならこの学級委員長は、恐ろしい程の音痴。
他の男子はそれを見越していたのかもしれない。
下手に僕が立候補していたら逆に顰蹙を買っていた可能性が高い。
これでよかったんだ。そう思う事にした。
ちなみに曲は予め多数決で決めていた「白いライオン」という曲。
何を隠そう、僕が一番やりたくなかった曲だ。
決まればかっこいいが、バランスと音程を保つのが難しそうだ。ただ漠然とそう思った。
先生もこの曲は難しいと言っていたが、上手く決まれば高得点を狙えるんだそうだ。
そうして合唱祭の練習は、なんともまぁ痛々しい感じで進んでいく。
音程が悪すぎる(特に男子)。隠しているようだったが先生もあきれているのが窺えた。
「もっとお腹から出さないと声でないよ~」
指揮者の級長がいう。
クラス:「はぁ~いっヒ」(若干の笑いが混じる)
ほとんど進歩のない中、練習終了。
やるなら金賞を狙いたい。クラスのみんなにもその気はあるようだ。
その日の練習終了後、僕は先生のところに行き一言。
僕「先生」
先生「あら遠藤くん、どした?」
僕「語呂は似てるけど遠藤じゃありません」
先生「あ・・・」
僕「・・・・」
僕「うちのクラス、別枠でパート練した方がいいですよね」
先生「そ、そうね」(名簿をみながら)
僕「伴奏だけのテープとかありませんか?」
先生「あるよ、各パートが収録されたのもある」
僕「それ、ダビングしてもらえませんか?ラジカセ借りて、放課後教室で練習しますから」
先生「それもいいけど、時間決めてくれれば第2音楽室使っていいわよ。あそこならピアノもあるし、吹奏楽部も使わないから。伴奏者に弾いてもらいながらの方がみんなも伴奏者も練習になると思うの」
僕「確かに。」
先生「担任の先生には私からも言っておくけど、あなたからも言いなさいね。テープも渡しておくから」
僕「はい、ありがとうございます」
ちなみにこの先生は別クラスの担任。そのクラスには負けたくないというのが、ウチのクラスからひしと伝わってきた。
この会話の一件以来、その音楽の先生のクラスからはライバル視されるようになる。
その日の昼休み、僕は級長にアタックする。
僕「級長、相談があるんだけど」
級長「おぉ、どーしたクールボーイ」
僕「やめろ」(ニヤリ)
僕「ウチのクラスさぁ、合唱はっきり言ってヒドイじゃん?」
級長「そーだなー、俺も歌には参加できないからなー」
僕「そ、そうだね・・っでさぁ、時間決めれば放課後第2音楽室使わせてもらえるそうなのよ。もし金賞を狙うならパート練しなきゃ絶対無理だと思うんだけど、級長どう思う?」
級長「おぉクールボーイ!おまえ見かけによらず血の熱いヤツだな!俺は大賛成だ」
僕「そうか、よかった。で、お願があるんだけど、今日の帰りのホームルームで今の話、みんなに話してくれないかな?君の案ってことでいいからさ」
級長「いや、まてまて。ここはちゃんとおまえの意見ってことでみんなには言うさ」
僕「そう、まぁ、まかせるよ」
級長「まかせとけーぃ」
そして帰りのホームルーム。
級長「ではこれで帰りのホームルームを終わりますが・・
クラス「うぇーい」
級長「諸君、待ちたまえ」
クラス「・・・?」
級長「みんなに相談があるんだ」
きたきた
級長「ウチのクラスははっきり言って合唱祭で金賞を狙えるほどではない」
クラス「えっ・・?」クスクス
と、ここで思い出す。
級長が音痴だってことを。
やってしまった。
これでは台無しだ。さあどうしよう。
う~む・・しかたがない・・・
級長「さっき我がクラスのクールボーイから・・
僕「やめろ(ニヤリ)」
僕「帰り際ごめんね。みんなに相談なんだけど、実はさっき斉藤先生(音楽の先生)と話してて放課後制限時間ありで第2音楽室を使わせてもらえる事になってさ、みんなが本気で金賞狙うっていうならパート練をしなきゃ絶対無理だと思うんだよね」
僕「それで、伴奏のみのものと各パートそれぞれが収録されてるテープをダビングしてくれるらしいから、伴奏のAさん(以下Aさん)がいない時でもそれに合わせて練習出来るし・・はっきり言って僕はそこまでやらないとウチのクラスに金賞は無理だと思う」
僕「まぁみんなそれぞれ都合もあると思うし、部活の人もいるし、放課後出来る人たちだけでも集まってやるべきだと思うのよ」
と、ここで級長が相の手をいれる。
級長「金賞狙おうぜみんな!!!」
クラス「ブフッ!!おーーーーー!!!!!」
というわけで、我がクラスの特訓が次の日から始まることになった。
思いの外みんなのやる気も、金賞を狙うという意志も固い。
そして・・・この件で僕とAさんの距離も次第に縮まってゆくことになる。
【思春期編 Ⅰ】中学生の部 つづく
